あとがき・蛇足など


瑕疵の標本 - 紫雲膏
 企画サイト「焦がしうるはしあなたの炎」様へ提出したお話です。煉獄さんのような強く逞しい男のひとにも、愛しいひとの胸に抱かれ、甘えたい瞬間がきっとあるのだろうと思いながら、在りし日の母の面影を重ねて書きました。肌に触れあってはいるけれど明確な性描写というわけではなく、でも確実に性の生々しい香りがするような話を目指したのですが、結果ただ戯れ合っているだけのようになってしまいました…。
 ちなみに紫雲膏についてはしのぶさんのお手製という裏設定があったのですが、文中のどのあたりに差し込んだら良いのか分からなくなり、割愛することにしました。

食後のデザート
 もともと短文恋愛(SS集)のほうに収めるつもりで書いたのですが、少し長くなってしまったので加筆修正して単体で掲載しました。お酒に酔ったひとが恋人あるいは意中のひとを見つめるときの、しっとりと甘く煽情的な、熱っぽい眼差しが書きたかったものです。

漸近線の淵
 キメツ学園設定のお話です。不死川先生は生徒の恋心を知っても、知らないふりをしつづけるか、言葉を選んで遠回しに、でもきちんと伝わるように拒絶するのだろうなと思います。それにしてもあの襟元は反則。
 ・漸近線(ぜんきんせん); ある曲線が、原点から無限に遠ざかるにつれて、限りなく近づいてはいくが、決して交わらないし、接しもしない直線。

瑕疵の標本 - 落椿、白の上の白
 さまざまな傷にまつわる、静かな掌編を書いてみたいと思い、始めました。継子の設定でお話を書くのは初めてです。個人的にはsacred girlsと同様、柱は理性的な人たちばかりだと思っているので教え子に恋愛感情を抱くことはないだろうと考えますが、そこは夢小説ということで…。
 こちらは軽い霜焼けを起こした足の指を舐めるだけの、さらっとした前戯のお話です。雨上がりの舗道に敷き詰められたたくさんの落椿と、雪化粧された竹穂垣の写真、またドビュッシーの雪の上の足跡をきいたとき、ふいに頭に浮かびました。

遮られない眠り
 タイトルは作業BGMに武満徹の遮られない休息をきいていたので、そこから拝借しました。「遮られない眠り」は、死を表しています。こちらは生殖機能を持たない鬼と美しい少女とのグロテスクな官能を、できるかぎり幻想的かつ退廃的に書こうと試みたものです。これまで書いてきた短編の中では比較的長めのお話になっていますが、文章の構成上1ページにまとめて掲載しました。

あいまい
 原作単行本19巻にて時透ツインズの学パロ設定を見、「手が出る」の意味をはき違えた結果生まれたのがこのお話です。ものすごく厨二じみた青臭い感じになってしまいましたが、これもまた青春ということで、大目に見てやっていただけるとうれしいです…。自分の中のテーマは言わずもがな思春期です。

束の間の休息
 無限城編の前あたり、彼の初恋を想定して書きました。もっとも、彼がこの感情を恋と知るのはすべてが終わってからの話、だといいなあ。
 以下、各話のエピグラフ引用元です。敬愛と感謝を込めて。
 1. : 蜜のあわれ - 室生犀星「蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ」
 2. : En robe grise et verte - P.Verlaine「ヴェルレーヌ詩集 堀口大學訳」
 3. : 瀧口修造「手づくり諺 ジョアン・ミロに」
 4. : Nevermore - P.Verlaine「ヴェルレーヌ詩集 堀口大學訳」

休日の醍醐味
 むちむち、というパワーワードを煉獄さんに言わせたかった話です。炭治郎や煉獄さんみたいな、長男みのつよいひとに甘やかされたい~なんて思いながら。だいたい年上の面倒見のいいひとと付き合ってわがまま言いまくって愛想尽かされるのが、私の現実での典型的な失敗パターンなのですが…。思いやりって大事ですね。

交尾
 冒頭の一段落と最後の一文が書きたかったものです。動物的な行為への合意が恋愛感情の芽生えによるものだと解ったとき、ヒトはどんな気持ちになるのだろう?

さびしいよ
 宇髄先生のお話のつづきです。伊之助の乱暴なやさしさがだいすきです。自分の気持ちもうまく言い表せないし、なぐさめる言葉も見つからない、でも、そばに居てあげなければ、と思う。不器用な彼が愛おしいです。

ワルツを
 谷崎潤一郎の痴人の愛を読み返していたとき、唐突に無惨さまとダンスがしてみたいと思ったのがきっかけです。自分のほんとうの名前や両親、愛する人の姿等々、人間だった頃の微かな記憶に縋り、鬼として永遠に生きるのもまた苦しいものだと思いながら、実際には「見た目に騙されてはいけない」と、なんだか教訓めいた話になってしまいました。ちなみに作業BGMはラヴェルのラ・ヴァルスでした。

常世の国にて
 彼には、どこか知らない死後の世界でどうか穏やかに暮らしてほしいと願うばかりです。死者の国を表すことばはいくつかあるのですが、極楽や天国、黄泉の国だと私の持っていたイメージと異なるため、この話では常世の国を死者の国または楽園としました。
 最下部に記したスクリャービンの24の前奏曲は大好きな曲のひとつです。その中でもとくに短く、穏やかでゆったりしていて、優しさに満ちた15番がいちばん好きです。

秘密の花弁
 おろかな蕾を書いた当初からこの後日談を考えていました。見られたところでべつにどうということはない冨岡先生と、自分の感情を隠そうとするけれど滲み出てしまう女の子の、熱量の差を書きたかったのです。洞察力に長けていて、恋する女の子のいじらしさを分かってくれそうな善逸くんに現場を覗いてもらいました。彼の、興奮したときの捲し立てるような喋りかたがかわいくって大好きです。タイトルおよびサブタイトルは三好達治の菊という詩から。

ごっこあそび
 こちらは近親相姦を仄めかす表現が含まれるため、かなり読むひとを選ぶ内容になっています。自衛できる方にお読みいただければと思います。
 聞いたところによると、家族に似たひとを好きになるというのは一種の帰巣本能の再現だそうで、本来は外見よりも性格が似ているひとを好きになる場合が多いそうです。

sacred girls - 陽炎
 sacred girls、これにて終了です。最後は、ぜったい煉獄先生って決めてました。片思いの女の子の、行き過ぎた妄想と自慰のお話です。好きなひとを想う女の子の妄想力ってものすごく過激だと思うのです。でも実際は、好きのひとことも言えない。今回はそんなところを強調してみたいと思って書きました。
 冨岡先生と煉獄先生のお話は、女の子の気持ちをはじめから知っていたかどうかについて、とくに決めていません。読んでくださる方の解釈にお任せいたします。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
 ・sacred; (形)神聖な、清らかな

美しい夜
 'しっとりとつめたいまくらにんげんにうまれたことがあったのだろう'
 お話の最下部にも記しましたが、こちらは笹井宏之さんの短歌から着想を得て書きました。鬼の立場で歌われたものでは決してないのですが、この歌を目にしたとき、なにかが私の中にしっくり来たのです。
 ふと人間だった頃のことを思い出すことがあるんだけれど、それはとてもおぼろげで、すぐに忘れてしまうのに、どこか胸につかえる部分があるといいなあ、と鬼に関してはそんなふうに思っています。

sacred girls - 少女とその処女性、脆性破壊
 宇髄さんは舌が魅力的だと感じます。先生のことがすきで、何かと口実を作っては美術室へ通う女の子と、それを知りながら受け入れている宇髄先生。大人のちょっとずるいところを書きたかった話です。キスしてしまうのは芸術的観点からそのほうが良い顔が描けると思っただけであって、先生の側に恋愛感情はないといいです。そう思うと、どっと切なさが押し寄せるので。

sacred girls - おろかな蕾
 鬼滅初心者のため時代背景や設定などなど勉強不足な部分が多いので、まずは学パロから…と思って書きました。キメツ学園だいすきです。先生に片思いしている女の子の妄想と思い込みと、それらによる衝動を、ねっとりと生々しく、且つ痛々しく書きたいと思って始めました。
 こちらは冨岡先生に折り曲げたスカートを直してもらう話です。そういったことでしか触れ合うことのできない愚かさや、女の子の幼稚な、ずるい部分を書きたかったです。



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