12月のマクドナルド
※社会人設定







 マクドナルドのポテトが全サイズ150円とのコマーシャルを見ていたら、急におなかが空いてきた。そんなわたしを見て、栄太くんは「太るぞ」と釘をさしていたけれど、いよいよほんとうに買いに行こうとすると、夜道の一人歩きは危ないからというようなことを言って、わたしの後を追いかけるように上着を羽織って部屋を出た。

 わたしたちの住むアパートは駅の近くにある。そのおかげで、交通の便がいいので車は必要ないし、スーパーマーケットやコンビニ、コーヒースタンドなんかも歩いて行ける距離にある。もちろん、マクドナルドも。毎朝、出勤時刻ぎりぎりまで眠っていたいわたしのために、栄太くんが選んでくれた部屋。いまでは立派な、ふたりの愛の巣である。


 ひんやりとした夜の空気をかき分けながら、栄太くんと並んで歩く。昼間と違う街の景色のなかをふたりで歩いていることにちょっとわくわくして、それだけでわたしの足取りは軽くなる。まるで付き合いたての頃みたいだ。


「なんか、結婚したって実感、沸かないなあ」
「おいおい、式挙げたばっかりだぞ」
「式は挙げたけどさあ…、関係性っていうのかな、そういうのが、全然変わんないなあって。ほら、わたしたち、結婚する前からいっしょに住んでたし、まわりも割りと、きっとこのふたりはそのうち結婚するんだろうなっていう目で見てた感じがなんとなくあったし、こんなふうに今までと変わらないまま、栄太くんと、おじいちゃん、おばあちゃんになってくのかなあ、と思って」
「そうか? けっこう変わったろ。籍入れて、お前も鈴木になったし」
「あっ、そうか」
「手続き面倒くさいって毎晩愚痴言ってたの誰だよ」
「わたしです」

 栄太くんは、はあ、とあからさまにため息を吐いて、うなだれた。結婚式で舞い上がって、そんなこと、すっかり忘れてしまっていた。栄太くんは前を向いたまま、真面目な口調で話をつづける。


「今はふたりとも仕事優先してて、あんま余裕ないけど、もうちょっと落ち着いたら、俺は子どもだって欲しいって思ってる。できれば、ふたりぐらいかな。そしたら仕事はおたがいちょっとセーブして、育休取ったりしてさ、家事とか育児とかできるかぎりのことはしたいと思ってるし、幼稚園の送り迎えも、曜日決めて交代制にしたほうがいいのかなあとか、運動会で保護者が参加する種目があったときのために、ランニングとフットサルは今後もつづけてたほうがいいな、とか、会社の休憩んときにそうやってぼうっと考えてるだけで、なんかすげえ楽しくなってきて、あっという間に時間経っててさ、うわ、俺、変わったなあって思うよ。大人になるって、案外こういうことかもな」
「栄太くん、そんなこと考えてたの」
「悪いかよ」
「ううん、なんか見直しちゃった」
「ていうかが計画性なさすぎなんだよ」
「うん、栄太くんがわたしをお嫁さんに選んでくれて、ほんとによかった。ちゃんと考えてくれてたんだね。わたし、いいママになれるように頑張るよ」
「それはいいけど、お前まだ妊娠してないからな」
「じゃあさ、帰ったらいっぱいエッチしよ」
「なんだそれ」
「ね、エッチしようよ、栄太くん」

 色気のない誘いかただなあ、と栄太くんはまんざらでもない顔をして言った。わたしは、寒いよう、とあまえて、彼の腕にしがみつき、指を絡めた。







2019.12.04