休日の醍醐味
※現パロ・同棲設定







 勢いよく掛けふとんを剥ぎ取られ、つめたい外気が、おだやかな熱を持った肌の上をするすると駆け抜けてゆく。下着も身につけずに寝てしまったせいで、突然に与えられた寒さを遮るものは、何もなかった。


! もうすぐ昼になるぞ!」

 開かれたカーテンからは、明るい陽の光が彼の背中をつよく差している。まだうとうとと眠りの世界に揺蕩っていたいわたしには、あまりに眩しく輝いていて、背中を向けてしまう。

「もうそんな時間……?」
「ああ、今日は部屋の掃除とシーツの洗濯をして、代官山の蚤の市に行くと言っていただろう」
「……また今度でいいわ」
「昨晩楽しそうに計画していたのは君じゃないか」
「気が変わったの」

 いつもと同じ時刻に目が覚めた彼は、朝からガソリンスタンドに行き、燃料を入れ、洗車まで済ませたと言って、着替えを始めた。きっと洗車のために、汚れてもいいような服を着て行ったのだ。衣擦れの音をぼんやりとききながら、わたしはゆっくり目蓋を閉じる。


「ほんとうに君は仕様がない」

 ベッドの上、からだをまあるく縮めたまま、いつまでも起きようとしないわたしに根負けしたのか、彼はもういちど、ごろんととなりに寝転んで、わたしの裸の曲線を、やさしくなぞってゆく。指先から彼のあたたかな体温がつたわって、すこしくすぐったい。

「起きるんじゃなかったの?」
のむちむちした体を見ていたら、気が変わってしまった」
「ひどいわ、煉獄さん」
「杏寿郎さんだ」
「……杏寿郎さん」

 彼は、わたしが苗字で呼ぶのをひどく嫌う。付き合う前のような、赤の他人だったころの感じがするのだと言う。それでもときどき、長年染みついた癖で、いまのように苗字で呼んでしまうことがあるのだけれど、そのたびに、杏寿郎さんははじめて言うみたいな口ぶりで、優しく指摘してくれる。

 ようするに、彼はわたしに甘いのだ。

 杏寿郎さんはしきりに、背を向けているわたしの肩やうなじへ唇を寄せ、ふたりで暮らすようになってからみるみるうちに肉のついてしまった──彼が甘やかすから悪いのだ──二の腕や、おしりや、腰のあたりを撫でたり、こまかく絡んだ後ろ髪を梳いたりして、わたしを寝かせまいとする。わたしはそれが、愛おしくってたまらない。


「杏寿郎さん、恋人どうしの休日の醍醐味、何か分かる?」
「ふたりきりで、どこかへ出掛けることだろう」
「ううん、もっと簡単なことよ」
「む、分からないな……。何だろうか」
「昼間からするセックス」

 背を向けたまま、つぶやくように言えば、せわしなく動いていた手が、ぴたりと止まる。

「それは名答だ」

 溌剌とした彼の声、翻るからだ、あちこちに落とされる口づけと、胸をつつむおおきな手のひら。今日の予定は、もうすっかり、だめになってしまった。







2019.12.16