Je te veux
しろいシーツ、淡い小花柄の掛けふとんに揃いの枕。いつもきまって枕元にすわっているうさぎのぬいぐるみが、カーペットの上でひとりしなだれている。
まるでじぶんの部屋じゃないみたいだ。平くんが部屋にいるだけで、視界にうつる景色が、一瞬にしてわたしのものでなくなってしまう。皺になってしまった制服のことなどとっくに頭の片隅に追いやられて、じりじりと昇ってくる快感に身をゆだねることしかできない。遠のく意識を引きもどすかのように、窮屈なシングルベッドが情けない音をたてた。
平くんの荒い呼吸がきこえる。
わたしの息もこんなふうにして彼の耳に届いているのかしら。からっぽになった頭でかんがえてみても答えなんて出てきやしない。まるで思考がどろどろの蜜になってからだじゅうのすべてのあなから零れ落ちてしまったようだった。
いま、わたしのすきなひとが、わたしを抱いている。そしてわたしのすきなひとは、これっぽっちも表情を変えないで、ぐずぐずになったわたしを見下ろしている。すこしの冷たさを孕んだ眼差しで。冷静でいられないのはわたしだけなのかもしれない。くやしい。わたしは、貴方の呼吸だけで感じることも、濡らすことも出来るのに。
わたしも平くんも、セックスのときには多くを話さない。それは行為に夢中になっているせいでもあるけれど、それよりも確かに言えることは、好きだとか愛しているといった甘ったるい科白の羅列は、このひとには通用しない。ベッドの上で誓う愛の約束ほど、陳腐で脆いものはないのだ。
「あっ…あ、」
わたしがシーツの端を握りしめると、平くんは決まって動くのを止める。そして、首を傾げるようにしてわたしの顔を覗きこむ。じっと目が合う。すべてを見透かしたように薄く笑って、わたしの名前を呼ぶ。
「
」
汗ばんだ額、はりつく前髪、まあるい目。漆黒の睫毛がまっすぐに伸びている。
「平くん…」
体を起こして両手をまわし、ちいさなキスをする。ふれるだけのキスを、何度も何度も。平くんが欲しい。平くんといきたい。ことばのかわりに、抱きしめて、キスをする。するとわたしのなかで平くんの熱がむくむくと大きくなっていくのがわかって、うれしかった。そのままゆるやかに加速しながら上下に揺さぶられていく。わたしたちのあいだに、ことばなど必要ないのだ。
体を重ねるうちにわかったことがある。平くんは終わりが近づくと一度だけ眉間に皺を寄せて、それから深いキスをする。咥内の肉付きや歯列、舌のかたちをたしかめるように。腰を揺らしながら、酸素をもとめて逃げるわたしの舌を、一生懸命に追いかけてきて、なんだかとてもいとおしい。奥へ奥へと突き動かしていく彼に、すでにオーガズムを迎えてしまったわたしはすっかり腑抜けてしまい、ただ力なく脚をひろげたまま、ふたたび来る波をぼんやりと待っていた。
E.Satie: Je te veux
2019.01.24