柿の生ハム巻き







 休日のまえの夜には、ゆったりと長く、気持ちのいいセックスをする。わたしたちは、お互いのからだのことなんて、もう充分にわかっているから、わたしは蒼也くんのせつなげな声をきいたり、そういった表情を見ているだけで、胸がぎゅうっと締めつけられる。心臓がどきどきと興奮して、なんだかいじめているような気持ちにもなるのだけれど、やめられない。そうして、気づくとショーツを濡らしている。

、もういい」
「待って、もうちょっと」

 彼の熱っぽい吐息が、シーツの波間に引っかかる。脱力した脚を投げだして、わたしは彼の脚のあいだに縮こまり、うっとりしながら奉仕する。

「つぎはの番だ」

 そう言って、わたしの肩をやさしく押し倒して、いっきに形勢逆転。蒼也くんもまた、わたしのからだをくまなく味わい尽くしているから、湿ったショーツはあっさりと剥がされ、からだじゅう、彼の指先や舌で執拗に愛撫され、入り口の浅いところを擦り、やわらかくほぐされて、わたしはシーツの端を握りしめ、子犬のような嬌声とともに、あっけなく達してしまうのだ。




 身も心もとろけるような情事のあとの、ずっしりと重い倦怠感はつきもので、わたしはとにかく喉を潤すために、キッチンへ向かう。低く唸る冷蔵庫から、ペットボトルのミネラルウォーターを取りだし、マグカップふたつに均等に注いで、ふたたび寝室へと戻る。彼はすでに下着を身につけていたけれど、腰のところのゴムが捲れているのに気がついていないようなので、マグカップをナイトテーブルに置き、ぱちんと引っぱり直してあげると、暗がりのなかで、カルバン・クラインの文字が、正しく読めるようになる。


「実家からお野菜と柿もらったから、明日から消費しなきゃね」
「あの、重いダンボール」
「そうそう」
「受け取ったとき、重すぎてびっくりしたな」
「蒼也くん、ひとりだったんだっけ、あのとき」
「たしかはちょうど、バターと牛乳買いに行ってたんだ」

 彼から買い忘れを指摘され、そういえば、と、明かりを消し忘れたことを思いだし、キッチンに戻る。ベランダへつづく掃き出し窓の傍に置かれた、おおきく口の開いたダンボールの茶色が目にとまる。中にはふたりぶんよりもはるかに多い、色とりどりの野菜と、橙色につやめく大ぶりの柿がぎっしり詰められていて、その隙間に挿しこまれたわずかばかりのお金といっしょに、手紙も一通、入っていた。

 ふたりとも、たまには元気な顔、見せに来なさいね。

 母の丸みを帯びた字が、いまの、はだかのわたしには、なんだかよく沁みた。


「ねえ蒼也くん、わたしね、このまえ友達とランチでイタリアン食べたとき、前菜のオードブルで、柿が生ハムに巻かれて出てきたの。ふつう、生ハムと果物って言ったらメロンじゃない? でも、食べてみたらおいしくて、わたしは案外、メロンよりいいんじゃないかって思ったの」

 ベッドの縁に腰かけていた彼は、置かれたマグカップのひとつに口をつけ、ごくごくと喉を鳴らし、わたしの推奨する柿の食べかたを、ぼうっと聞いていた。それから、空っぽになったマグカップをナイトテーブルの上に戻し、床に投げ捨てられたパジャマがわりのティーシャツとハーフパンツを黙々と穿いて、わたしのぶんのパジャマを集めて寄越し、「それじゃあ明日は、生ハム買わないとな。あと、つぎの連休にはの実家に顔出しに行くから、ほかの予定を入れないように」と言って、ひとあし先にベッドへ潜りこんだ。

「あの手紙、読んだの?」

 わたしは蒼也くんの放ったことばのひとつひとつに浮き浮きして、その夜は彼の胸にぴったりと寄り添って眠った。







2019.11.13