短文恋愛
※オムニバス形式の現パロSS集
※前後のつながりはありません
※社会人・同棲設定
※一部に性表現を含みます
※上方ほど新しいです






 朝、カーテンのドレープの隙間から漏れたやわらかい光に包まれている君の、微かにきこえる寝息。ゆるやかに上下する肩。しっとりと生あたたかい肌。君のにおい。
「おはよう」
 気持ちよさそうに眠る君を起こさないよう、できるだけ静かに身体を起こし、囁くような挨拶をして、顳顬へそっと口づける。すると君はほんのわずか眉根を寄せて悩ましげな表情を浮かべ、それからくすぐったそうに笑い、寝返りを打つ。俺は君の身体へブランケットを掛けながら、こんなふうに穏やかな朝を迎えられたことに心からのしあわせを感じて、床に散乱したふたりぶんの服をかき集め、今日は朝食の目玉焼きに卵を二個ずつ使おうと、ちょっとだけ贅沢なことを思ったりした。

幸福な食卓 / 18, Jun. 2020




 ソファに座る俺の膝を背もたれにして、はラグの上に膝を崩し、平織りの布へ、黙々と針を刺していく。以前、ふたりで街へ出掛けたときに買った刺繍キットを、ようやく今になって引っ張り出してきたのだ。
が針を使っていると、なんだか危なっかしいなあ」
「そう?」
 余程熱中しているのか、は振り向きもせず、肩を揺らしてくすくす笑う。図案と説明書をテーブルに広げ、ときどき睨むようにしながら取り組む彼女の熱心な姿に、俺はなんとなく既視感があった。
「うん。それに俺はずっと前にも君のそんな姿を近くで見ていたような気がするんだけれど、それがいつ、どこだったか、現実にあったことなのか、ちっとも思い出せないんだ」
「わたしたち、もしかしたら前世にも、こういうことがあったのかもね」
 そう言って、今度はくるりと振り返り、優しい目をしてにっこり笑う。俺はちょっとどぎまぎして、紛らすように咳払いした。

おうち時間 その4・刺繍 / 12, May. 2020




 炭治郎くんがバーテンダー、わたしがお客さんになって、夜な夜なおうちバーを開くのが、近ごろのわたしたちの楽しみである。もちろん最終的にはふたりとも心地よく酔っ払って、お互いに服を脱がしながらベッドへ向かうのだけれど、三回に一回ぐらいは、キッチンに立ったまま、べたべたにキスしたり、セックスしたりすることもある。
 グラスの縁にスライスしたレモンを滑らせ、食塩を付け、氷を入れる。グレープフルーツジュースの酸味のある爽やかな香りがふんわりと漂い、鼻孔をくすぐる。わたしは、バー・スプーンで優しくステアする指先を眺め、うっとりしながら、彼の知らない、頭の奥深くで、今日はどんなふうに抱いてくれるのだろうかと、淫靡な想像を繰り返す。

おうち時間 その3・Salty Dog / 22, Apr. 2020




 久しぶりに予定の合った休日、片手に缶ビールを持ちながら、ビデオ通話で会話する。会話の相手の旧友は、二ヶ月ほど前に恋人に振られたばかりで、まだ未練があるためか、いまだ新しい恋に踏み込めずにいる。
「いいよなあ、炭治郎にはちゃんがいてさ。俺なんか、今日、お前と通話するまで誰とも喋んなかったぜ。昼間あんまり寂しいから、彼女が置いてったベランダの植物に話し掛けちゃったよ」
「善逸は優しいから、新しい恋人のひとりやふたり、すぐにできるさ」
 後ろ向きな善逸を慰め、互いに酔っ払った赤ら顔を晒していると、突然に画面の向こうが静まり返った。何かと思えば、善逸が俺の肩のあたりを指差している。
「た、炭治郎、後ろ……」
 背後の物音に気づき、しまった、と振り返ると、そこにはいつもの、風呂に入る直前ヘアバンドを探してうろつくの、愛しい下着姿があった。

おうち時間 その2・オンライン飲み会 / 15, Apr. 2020




 卵黄、牛乳、薄力粉、ベーキングパウダー。わたしはそれらをなめらかになるまでかき混ぜる。隣りの炭治郎くんは部屋着の袖を捲り上げ、張り切って卵白をメレンゲにする。料理に限らず、日常のほとんどすべてにおいて、根気の要る作業は彼が率先して取り組んでくれるから、わたしはいつも、彼に甘えてしまう。
「こういう凝ったことをするのも、たまにはいいかもね」
 そう言って横を見上げると、彼がかき混ぜていた手を止めて、「俺も、ふたりの時間が増えてうれしい!」と心底楽しそうに笑うので、わたしはなんだか照れくさくなって、彼の脇腹のところをちょっとだけ抓った。
「痛っ!」
 わたしたちは、今日、どれだけふわふわのパンケーキを作れるかに挑みます。

おうち時間 その1・パンケーキ作り / 15, Apr. 2020




「静かにね」
 はじめのうちはスリルがあって興奮するなんて言って、思う存分楽しんでいたのだけれど、数を重ねていくと慣れのせいか少しずつ物足りなさを感じて、ついに今日、わたしの心が限界を迎えた。
、頼むから、声を抑えて」
 思っていた以上のヴォリュームに、わたしは口元を手で隠し、声を押し殺して笑う。やわらかく窘める彼にからだをおおきく揺さぶられて、笑い声はたちまち嬌声に変わる。はあ。吐息まじりに喘いでみれば、彼のくちびるが蓋をする。

壁の薄い部屋でするセックス / 17, Mar. 2020




 朝からおいしいコーヒーが飲みたくなったわたしたちは、お互い、マフラーをぐるぐる巻きにして、意味もなく寒い、寒いと言いあう。
「ここでキスして」
 コーヒースタンドへ向かう細い路地の影で、突然に立ち止まり駄々をこねるわたしに、炭治郎くんは眉尻を下げ、あからさまに困った顔をする。その顔が好きなの、とは、余計に困らせてしまいそうだから、今は言わない。
「おねがい」
 急かすようにコートの袖を引っぱると、あたりをきょろきょろ見回して、口元を隠すマフラーに指をかけ、ほんの一瞬、唇が触れて、すぐに離れた。わたしはたちまちご機嫌になって、からだはぽかぽか、あったかくなる。横を見れば耳まで真っ赤に染めた彼が、マフラーの下に、鼻の先まで埋めていた。

冬の朝 / 11, Feb. 2020




 音のしないよう、そろそろとベッドのなかへ潜りこむ。そうすると、待ちかまえていたように筋張った腕が伸びてきて、わたしのからだはいとも簡単に、捕えられてしまう。
「つめたいな、の足」
 絡んだ彼の足は眠気を孕んで、心地よくあたたまっている。爪先を素肌のうえに滑らせて、冷え性なの、と抱きつけば、俺があっためてあげよう、と、おだやかな愛撫がとろとろと、やさしくわたしを溶かしていく。

とろける / 23, Dec. 2019




 好きなひとの部屋で、好きなひとの部屋着を着て、好きなひとのにおいに包まれながらソファに沈み、好きなひとの帰りを待つ。そうして昨夜のことを思いだしていると、いつの間にか眠りこんでしまい、玄関の扉の音に薄く目を開ければ、部屋の明かりをつけ、わたしの格好に驚いた炭治郎くんが、鞄と上着を床に放って、目の前にしゃがんでいる。ちょっとだけ顔を赤らめ、参ったな、と頬を掻いて。
「ごめんね、まだ、ご飯もお風呂も、なんにも仕度してないや」
 起き上がろうとすると肩を押されて、今度はふたりでソファに沈む。今日は外で食べよう。そう言いながら、服のなかに手を入れて、するりと下着のホックを外し、啄むようにキスする彼にされるがまま、わたしは好きなひとの腕のなかで、あつあつのグラタンが食べたいなあなんて、のんきなことを考える。

好きなひと / 12, Dec. 2019




 俺の目に、ねむっているの、白くやわらかな脚が映る。ほどよい肉づきの、まるみのある輪郭は、あまりに瑞々しく、少しでも力を入れたら弾けてしまいそうだ。薄い膜に触れるようにそうっと手のひらを滑らすと、触れた瞬間だけひやりとして、そのまま動かさずにいると、だんだん熱くなってくる。俺の手のひらが熱くなっているのか、の脚なのかはわからない。もしくはそのどちらも、熱くなっているのかもしれない。籠もる熱を逃がし、なめらかな肌を味わうように撫でてゆけば、彼女の腿がぴくりとふるえて、俺はふと我に返る。そうして触れていた手を離そうとすると、すでに目を覚まし、寝たふりをしていたが、ずいぶんと楽しげな笑みを浮かべて、俺の手を掴む。
 もっと、ちゃんとさわって。
 まだ眠気の残る、蕩けた目をして俺を見つめ、掴んだ手を自分の服の下へ連れこんで、俺は先刻よりももっとやわらかく、湿った場所へと誘われてゆく。

悪戯 / 6, Dec. 2019




 うつ伏せになったわたしの上に跨がり、炭治郎くんのゆるやかな動きが与える心地よさにうっとりしながら、わたしは、からだを弓なりにして、何度も何度も、同じことばかり口にする。気持ちいい。それから、好き。さまざまな強弱のついたため息を合間に挟んで、彼は、何度も何度も、わたしの名前を呼ぶ。そうして覆い被さるように背を丸め、汗ばんだ髪をよけ、わたしの首すじや、肩のあたりや、背骨や肩甲骨のくぼみを舐め、ときおり強く吸いあげて、意識を手放そうとするわたしを、まだだめだって、鈍い痛みで引き留める。

だめになる / 2, Dec. 2019




 目があうと、はじめはにっこり笑って頭をなでてくれる。それでもじっと見つめていると、つぎはちょっと困ったふうに眉を下げ、ゆるゆると指を絡めて、やさしく微笑んでくれる。それでもじいっと見つめていると、すこしずつ顔を真っ赤に染めて、目を泳がせて、そんなに見つめないでほしいって、ちいさな声で訴える。
「好きなひとを見つめたらいけないの?」
「…そういうわけじゃないんだ」
 俺の身がもたないって、わたしの手の甲に何度もくちびるを押しつける炭治郎くんに、わたしはなんだかとっても愛おしい気持ちになって、そうっと掬い上げるように、彼のくちびるを食んだ。これじゃあ、わたしの身ももたないよ。

きみのせい / 29, Nov. 2019




 ブランケットにくるまって、ふたりで映画や撮りためたバラエティ番組なんかを見ることがあるけれど、かならず最後まで見られたためしがない。だいたい炭治郎くんがわたしのとなりか、うしろに座って、ぴったりとからだをくっつけて見るのだけれど、しばらくすると視線を感じて、振りかえれば、熱っぽく潤んだ目と目が合って、それだけでもう、彼しか見えなくなってしまう。
「わたしが、耳、弱いの、知ってるでしょ」
「知ってる。だから、こうしてる」
「いじわる。炭治郎くんなんか、きらい」
「俺は好きだ、のこと」
 彼はわたしを抱きしめたまま、耳や首すじにくちびるを寄せたり、そこで深く息を吸ったりして、わたしの口から甘いため息が漏れだすのを、今か今かと待っている。

停止ボタン押して / 28, Nov. 2019




 ひどい寝癖だって言いながら、わたしの髪をとかす彼に、だれのせいだと思ってるの、とむくれる。彼はぽかんと口をあけ、目をまるくして、心当たりなんてまるでないふうに、俺? とたじろぐ。そうよ、わたしのこと、ぐしゃぐしゃにしたの、炭治郎くんなんだから。とたんに顔を赤くする彼の、かたく鍛えあげられた腹筋に、よわいパンチを一発、お見舞いしたら、彼は大げさに痛がって、でも顔は恥ずかしそうに笑ってた。つられてわたしも笑っていると、仕返しだって、顎を掴まれキスされた。

おあいこ / 27, Nov. 2019




 炭治郎くんは、わたしを誘うとき、かならず腰のくびれをなでる。ゆびさきが肌の上を滑るように動いて、暗がりのなかで見つめ合う。さまざまな感情や欲求をいつも直接的なことばで表現する彼は、「君を抱きたい」とささやいて、そこから、わたしたちの夜がはじまる。
 わたしが炭治郎くんを誘うときには、ベッドによるべなく転がる彼の手を引き、腰のくびれへ持っていく。「なでて」と乞うくちびるからあまい吐息が漏れて、彼の骨張った手が、熱くやわらかい部分に触れる。お互いの下着を脱がせて、肌をぴたりと合わせれば、わたしを呼ぶ優しい声とキスの雨が、闇のなかから降ってくる。

夜の誘いかた / 26, Nov. 2019




 たとえば焼肉屋さんへ行くとき、バーベキューをするとき、キッチンでお肉を焼いて食べるとき、炭治郎くんはとても真剣なまなざしで、研ぎ澄まされた集中力でもって黙々と、スライスされたお肉を焼く。待ちきれなくなったわたしがお肉をひっくり返そうとすると、あともう少しと言って、優しくわたしの手を握り、するりとトングを奪ってしまう。そして、生っぽい焼き加減の好きなわたしに合わせて、内側だけをきれいなピンク色に焼き上げてくれる。
 テーブルの上に並べられた、おいしそうなそれらを眺め、なんだかわたし専属のシェフみたい、と笑えば、のためなら料理でもなんでもするよって、彼も照れくさそうに笑った。

与えたい / 26, Nov. 2019




 ‪シモンズの、ふかふかのベッドで彼とねむる。横を向けば片頬はつぶれて、目蓋は開いているのか閉じているのかあいまいで、うつらうつらとして、そんな彼を見てわたしが笑えば、まるで合わせ鏡のように彼も笑うし、キスしてってあまえれば、心地よいねむりの世界へ片足を踏み入れたまま、もっと近くにおいでって言う。‬からだを擦り寄せると、あったかい脚が蔓のように絡まって、彼のくちびるが、そうっとわたしのくちびるへ触れる。そうして、触れたところのわずかな隙間から、おやすみの声が漏れてゆく。

おやすみなさい / 17-25, Nov. 2019





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