甘い吐息







 ベッドの縁に腰かけ、膝の上でわななくの華奢な背中の線を、じっと見詰める。そのまま顔を寄せ、薄い肩口へ唇を添え、齧りつくと、彼女はびっくりして首を縮め、短い嬌声をあげた。


「あっ」


 僕は彼女の耳や首すじを舐め、肩や二の腕のみずみずしい肌の感触を手のひらに馴染ませながら、どうして女の子のからだは、こんなに薄くて、細くて、やわらかいのだろう? と、ふしぎに思った。どこもかしこもふわふわしていて、まるみがあって、しっとりしていて、かたく直線的な部分は、どこを探したってひとつも見あたらない。おまけに花や果物のような、甘美な香りまで漂わせている。おなじ人間なのだから、なかに詰まっているものなんて男の僕とたいして変わらないはずなのに、その質量や密度、輪郭、備える場所がちがうだけで、まるで別の生きものみたいに感ぜられるのだ。


「自分で動けるかい」


 の耳へ息を吹きかけるようにしてささやくと、彼女は肩を震わせながらちいさく頷き、ゆっくりと踊るように、前後にからだを揺らしはじめた。見えるのは、ぎこちなく動く彼女のほどよく引き締まった腰のくびれ、その向こう、僕の膝頭の上に、まるく、爪を立てるように置かれた手、汗と僕の舌とで濡れた首すじには、おくれ毛が黒い筋のように貼りついている。
 はじめはため息のような深い呼吸をくりかえしていただけれど、揺れ動くたびにそれはだんだん浅く、はやくなり、いまでは上擦った声であっと驚いてみせたり、食いしばってみせたり、ときどきちょっと唸ってみせたりと、母音ばかり口にだして、すっかり言葉をわすれてしまったみたいだ。


は気持ちよくなると、いつもお喋りできなくなっちゃうね」
「あっ、あっ……」
「そんなに気持ちいいの?」


 僕はうしろに手をつき、うっとりとその背──ほくろの位置だとか、背骨のつなぎ目のくぼみ、うっすらと浮き出た肩甲骨なんかを眺め、まるで幼い子どもにでも問いかけるように、つとめてやさしい声でたずねる。すこしだけ腰を打ちつけて動くのを手伝うと、彼女の腰のあたりがこまかく震え、首を横に振って、わずかに抵抗しているのがわかった。この体勢だと彼女の表情は見えないけれど、迫り来る快感に身を委ね、きっといまにも泣きだしそうな、愛らしい顔をしているのだろう。
 僕の膝に、爪が食い込んでゆく。


「ああっ、い、あっ」
「ねえ、


 当然ながら、彼女の返事はない。いろいろな強弱の表情を付けた母音たちが不規則な調子で吐き出されるだけで、彼女の、いつもの流れるような朗らかな話し声は、ベッドの上ではつねに停滞し、その影を潜めてしまう。

 正直なところ、もうそろそろ僕もこんなふうに流暢に喋ってはいられなくて、躊躇いながらも心地よく与えられる彼女の収縮と弛緩に限界を迎えつつあった。背を起こし、彼女のからだへ手をまわしてやわらかな胸のふくらみをたしかめるように撫でてから、指先をするすると下のほうへ滑らせてゆく。脇腹から腰にかけての、あまり筋肉のなさそうな、薄い皮膚の表面に触れたとき、彼女の背が弓なりに反って、いっそうおおきくなった甘い吐息が漏れて出ていったので、僕は腰のあたりを掴んで揺らした。
 何度かおおきく揺さぶって、それから片方の手を前へまわして陰毛をかきわけ、しっとりと湿った花弁をひろげ、ぬかるみの上にあるちいさな蕾に触れる。弾けてしまいそうなほどに赤くふくらんだそこを爪先で引っかいたり、指の腹で押しつぶすように擦ったりすると、は腰を浮かせてよろこんで、痙攣したみたいにからだを震わせ、弱い叫び声をあげた。


「ああ、


 きみはなんてかわいい生きものなんだろう。
 腰を掴んでいる手に彼女のやわらかな手が重ねられて、僕は貼りついたおくれ毛を避け、彼女の首すじへ啄ばむようにキスを落とした。彼女の耳は薔薇色になって艶めき、口からは相変わらず甘い吐息ばかりが溢れ出ていた。







'背面座位'
2019.09.17